# --- Kifu for Windows V6.34 棋譜ファイル --- 開始日時:2010/02/21 10:00 終了日時:2010/02/21 16:58 棋戦:第2期天河戦三番勝負第1局 持ち時間:3時間 消費時間:89▲180△171 場所:駒込サロン 手合割:平手   先手:石橋幸緒四段 後手:中井広恵天河 手数----指手-- *中井広恵天河が2連覇を果たすのか。それとも挑戦者の石橋幸緒四段が頂点に立つのか。「天河」の称号と賞金100万円をかけて、第2期天河戦三番勝負は2月21日(日)に開幕する。対局場は駒込サロン。第1局の先後は振り駒によって決められる。振り駒の結果「と」が4枚出て、石橋四段の先手と決まった。 * *(棋譜・コメント入力=青葉) 1 5六歩(57) *10時、対局開始。何でも指しこなす石橋、今日は中飛車を宣言。 2 3四歩(33) *昨年度の三番勝負は中井六段と成田弥穂アマとの対戦が大きな話題となった。結果は2連勝で、中井が初の天河位に就いた。 3 5八飛(28) *さっと中飛車に。 4 3二飛(82) *小考で中井は三間飛車に振る。相振り飛車は中井の裏芸だ。一般的に相振り飛車では、中飛車と三間飛車ならば、三間飛車の方がいい位置とされている。 *ここで石橋は時間を使っている。 5 6八銀(79) *ここまでの消費時間は石橋11分、中井4分。持ち時間はチェスクロック使用・各3時間で、切れたら1手60秒の秒読み。 6 6二玉(51) 7 5七銀(68) 8 7二銀(71) *中井は美濃囲いに組む。 9 3八金(49) *中飛車ではしばしば見られる駒組みの過程。 10 7一玉(62) 11 4八銀(39) *石橋らしい、独創的な序盤戦。 12 4二銀(31) 13 4九玉(59) 14 1四歩(13) *中井は少し考えて端を突く。 15 9六歩(97) *石橋はノータイム。意味深な端の突き合い。 16 5二金(41) 17 7六歩(77) *保留していた角道をここで開ける。 *対局開始から30分が経過。消費時間は両者ともに15分。 18 4四歩(43) *角交換は損と見たか、中井は角道を止める。 19 9五歩(96) *相手が端を受けなければ、当然突き越したい。 20 3五歩(34) 21 6八飛(58) *シフトチェンジ。さて、この手の意味は? 22 4三銀(42) *中井の方はいつも通り、自然な駒の使い方。 *対局開始から50分が経過。消費時間は石橋23分、中井27分。 23 5八金(69) *飛車を一つ寄せた意味のひとつは、ここに金を上げるためだった。この瞬間、先手はいわゆる「かに囲い」の形。ネーミングの由来は、2枚の金がカニのハサミに見えるから。また玉が横ばいに動くから、という説明がされることもある。カニ囲いは平手で矢倉囲いを組む過程か、あるいは二枚落ちの定跡で下手側の囲いとして登場する。いずれにしても、盤面左側で見られることがほとんどだ。 24 3六歩(35) *飛車先の歩の交換は、原則的には得となることがほとんど。ただし位を張っている歩を交換するのは、逆にそこから相手に駒を押し出されてきて損な場合も生じる。将棋はあくまでケースバイケースだ。 25 同 歩(37) 26 同 飛(32) 27 6六歩(67) *石橋、今度はこの筋の歩を伸ばす。次に▲6五歩と突きこせば、後手には高美濃の好形に組ませず、先手は角道が通った伸び伸びとした布陣となる。 28 1三角(22) *4四歩で角筋が止まっているので、こちらで活用。さらには△3三桂と跳ねられれば、攻めの布陣の理想形。 29 6五歩(66) *四間飛車で▲6五歩と突くと、飛角の筋が一度に広がって気持ちよい。 *時刻は11時を過ぎている。ここまでの消費時間は石橋25分、中井40分。 30 3四飛(36) *中井は自然に待機。 *対して石橋はここで時間を使っている。 31 8六歩(87) *約25分を使った後での着手。相振り飛車は序中盤のセンスが命という。しばらくの間、様々な構想を比較対照していたのだろう。時刻は11時半を過ぎた。本格的に駒がぶつかるのは、午後からだろう。 32 5四銀(43) *腰掛銀の形。次に△3三桂と跳ねれば、「攻めは飛角銀桂」の理想形。後手の角が先手陣に直射しているので▲4六歩と止めると、今度は△4五歩の争点を与えてしまう。 33 4六歩(47) *石橋、この一手も熟慮の末。△4五歩の争点は与えてしまうが、ここを突かないことには自陣の発展性がないと見たか。ただしすぐには△4五歩はなく(▲1一角成で香を取れる)、後手が他に何を指しても▲5五歩と銀を追い返すことができる。 34 3三桂(21) 35 5五歩(56) 36 4三銀(54) *後手は手損のようだが、不満なしと見ている。先手は現状上部に伸びた形なので、金銀をうまく進めて厚みを築きたい。11時59分頃、石橋が「時間に入れてください」と告げ、昼食休憩に入った。石橋も記者も12時10分から休憩だと思っていたが、今日は12時から13時までだそうだ。消費時間は、石橋1時間6分、中井54分(チェスクロック使用、各3時間) 37 6七飛(68) *13時、本局立会人の藤森奈津子三段が再開を告げ、対局再開。石橋はすぐに飛車をひとつ浮いた。変幻自在。 *今日は午前、大庭美樹初段と松尾香織初段が観戦に訪れていた。午後は船戸陽子二段と島井咲緒里初段。 * *※中井はここで△8二玉だと▲4七金左で、攻めが難しくなると判断した。 38 4五歩(44) *中井は20分ほど考えて、突っかけた。▲4五同歩ならば勢いよく△同桂なのだろうか。 39 4七銀(48) *銀を2枚並べて、いわゆる雁木(がんぎ)の形で受ける。銀は縦か横、いずれにしても2枚並ぶのが互いの弱点を補いあって美しい形。 40 4四銀(43) *じりっと駒を押し上げてゆく。次は△4六歩や△3五銀という自然な攻めがある。 *ここまでの消費時間は石橋1時間18分、中井1時間24分。盤上は激しくなりそうでも、駒込の町は天気のよい穏やかな午後の昼下がり。対局場の駒込サロンでは、コーヒーメーカーが静かな音を立てている。 41 3六歩打 *飛車の直射を止め、△3五銀の進出を遅らせる。中井が考えている間、石橋はコーヒーを注ぎに席を立った。 *後手の候補手は、攻めるならば△3五歩の合わせか、あるいは△4六歩の取り込みか。 * *※△4六歩▲同銀左△4五歩▲3七銀と決めてから△3五歩だと、石橋はすぐにつぶされないと判断していた。 42 3五歩打 *中井は熟慮の末に歩を合わせてきた。着手の後に、席を立つ。ここまでの消費時間は中井1時間52分、石橋1時間32分。 *さて石橋はどうするか。▲3五同歩△同銀と応じては、ゼロ手で銀を前に進めさせたことになる。今度は石橋が考える番。静寂の時間は続いていく。駒込サロンでの対局中は、両対局者同士、あるいはパーテーションの向こうで関係者同士の話し声が響く、などということはほとんどない。いつも静寂のうちに、対局は進行していく。 43 5四歩(55) *角筋を通す突き捨て。歩が3個所ぶつかれば上級者、という言葉もある。あちこちで駒がぶつかるのが、上級者同士の戦いだ。 44 3六歩(35) *かちりと小さな駒音を立てて、中井は着手。大きな取り込みだ。そしてまた静寂の時間。 *さて対局中は静かと言っても、休憩中は別である。談笑の中に気の利いたジョークや鋭い毒舌などが飛びかい、それらの言葉も中継でお伝えしたいほどだ。しかしながら今日は――。関係者の間で今朝口にされたのは、にわかには信じがたい、悲しい出来事だった。北海道将棋連盟常務理事の新井田基信さんが、48歳の若さで亡くなられたという。NTTル・パルク協賛のLPSA将棋ツアー・札幌開催などを始め、LPSA一同、新井田さんにはいつも感謝しきれないほどお世話になっていた。将棋界は真に偉大な人をまた一人失った。謹んでご冥福をお祈りいたします。 45 6四歩(65) *「石橋先生、残り60分です」と告げられた後、石橋は「はい」と大きく返事。負けじとこの筋の歩も突いた。しばらくして、「中井先生、残り60分です」の声。中井はハンカチを口に当てて考えている。やがて「ふー」とため息が聞こえた。 * *※本譜の順が示す通り、後の▲6二歩を用意した。感想戦では手抜きで△3五銀と出て、▲6三歩成△同銀とする順も検討された。 46 同 歩(63) *中井の指し手は一貫して自然。 47 3六銀(47) *はっと目を見張るような一手。これが石橋流。△3六同飛は▲4四角で銀の取り合い。 48 4六歩(45) *中井は落ち着いて、今度はこちらの筋を取り込む。さて石橋はどうする。緊迫感あふれる局面だ。 49 5三歩成(54) *局面が次第に複雑化してゆく。 50 同 金(52) *△5三同銀は▲3五歩と押さえて先手よしだろう。 51 3五歩打 *ノータイム。それでも歩を打っていった。 52 同 銀(44) *歩得をしながら、素直に応じる。 53 同 銀(36) *駒音高く、ノータイム。△3五同飛には▲4四銀がありそうだ。△3五同角には▲3六歩か。先手陣も△4七銀の打ち込みのキズや△4五桂などがあり怖いところだが、恐れている場合ではない。中井はここで手を止めて考えている。両者ともに同じぐらいのペースで時間が消費されてゆく。中井が考慮中に、残り47分で並んだ。 * *※△3五同角▲3六歩△1三角▲3五銀△5四飛▲3三角成という順も石橋は想定していた。 54 同 飛(34) *強く。▲4四銀ならばそこで△3八飛成以下、一気に仕留めてしまおうということか。 55 4六銀(57) *受けの勝負手。歩を払った。(1)△3八飛成▲同玉△4六角の二枚換えならば、▲6二歩(△同金、△同玉、いずれも王手角取りの筋がある)と打って反撃か。石橋、ここは辛抱する楽しみがありそうだ。逆に中井はゆっくりとはできない。中井の手がここで止まっている。この銀出は軽視していたか。 * *※「何かあったらしょうがないですね、こっちは」(石橋) *「やっぱりここ(▲6四歩△同歩)が入ってるから……」(中井) *△3六飛▲4七銀△4六角▲3六銀△1九角成▲6二歩△同金▲3三角成△2九馬もあったか。 56 6五飛(35) *中井、残り29分まで考えて飛車をぶつけた。石橋は残り42分。 57 同 飛(67) 58 同 歩(64) *さあここだ。 59 6二歩打 *手筋一閃。後手はどう応じても味がわるい。もう一つ△8二玉と入っていれば、△7一金と寄って何も起こりそうもないところだ。 60 同 金(61) *6分ほど考えて応じる。 61 3三角成(88) *残り時間は中井22分、石橋38分。 *飛車打ちの王手は含みにして、じっと桂を取って置くのがプロらしい手順。対して後手から、例えば一段目に△7九飛と打たれて王手をされたら、▲5九歩の底歩が効く。 62 7九飛打 *王手。 63 5九歩打 *この底歩が石橋の命綱。 64 7六飛成(79) *桂を取らずに成り返る。歩切れを衝いた一着。逆に先手に歩があれば、▲4七歩でしっかりするところだ。▲3七銀は△3六歩、△5七歩、△4七歩などをからめて調子のよい攻めが続きそう。中井、さすがの一着か。 65 5七銀(46) *こちらに引いた。石橋には歩がないのに対して、中井には7枚もある。そして3、4、5筋に歩が利くのが大きい。 66 5六歩打 *まずは第一弾。残り時間は中井12分、石橋28分。 67 4一飛打 *このタイミングで王手。攻防の位置。 68 6一銀(72) *節約して受ける。△6一歩とは打てない。 69 4八銀(57) *中井のターン。 70 4七歩打 *歩の叩き第二弾。どう応じても味がわるい。 71 同 金(38) *形は乱れるが仕方がない。 72 4六歩打 *歩の叩き第三弾。 73 3七金(47) *歩の枚数を考えなれけば、駒割は石橋の桂得。手番を握って攻め続けているのは中井。果たして形勢やいかに。 74 3六歩打 *歩の叩き第四段。 75 3八金(37) *ダンスを踊るように金が翻弄されるうちに、大きな垂れ歩が3枚並んだ。これがいわゆるダンスの歩。 76 6六歩(65) *何とも落ち着いた一手。置駒の歩をじっと伸ばして、手を渡した。先手からは早く有効な攻めがないと見ている。▲6八歩と打ってくれれば先手は歩切れで、6筋に歩も立たなくなり、将来の▲6三歩などもなくなる。中井、優勢を意識した指し回しか。 77 5四桂打 *何か飛んできた。すぐに「中井先生、残り10分です」の声。石橋は残り14分。 *▲5四桂に△同金と応じると▲4三馬だろうか。あるいは▲6三歩△同金▲5一馬の方が厳しいか。中井は時間を削って考えている。そして時間を使い切り、ここから一分将棋に入った。 78 6五龍(76) *驚きの辛抱。中井天河や清水市代女流二冠にはしばしばこうした粘りの手が出てくる。こうした辛抱が女流トップで活躍し続けてきた秘訣なのだろうか。 79 6二桂成(54) *この金をはがせたのは大きい。 80 同 龍(65) *中井はずっと、ハンカチを口に当てている。石橋は手応えを感じているだろう。 81 5一馬(33) *石橋の手がしなってきた。地下壕に収まっているような石橋玉は、今しばらく耐久力がある。ならばここは一気に畳み掛けるチャンス。 82 6七歩成(66) *急転直下のような展開。石橋の▲5四桂が見事だったか。 83 6二馬(51) 84 同 玉(71) *50秒を読まれてから応じる。 85 6三歩打 *石橋はノータイム。 86 同 金(53) 87 4二飛打 *石橋、ノータイムの連続。 88 5二銀打 89 7一銀打 *「石橋先生、残り10分です」の声。「はい」と答えた後、石橋四段はすぐに銀を打った。△7一同玉▲5二飛成で、後手玉は必至か。以下△5八と▲同歩△6二金打としても、▲6一飛成△同金▲8二金で後手玉は詰む。秒を読まれた後、中井天河は次の手を指さずに、ここで潔く投了を告げた。 *終了時刻は16時58分。消費時間は中井3時間、石橋2時間51分(チェスクロック使用、各3時間)。三番勝負は挑戦者の石橋四段がまず1勝をあげた。 90 投了 まで89手で先手の勝ち